「金色の光」あらすじ
中国の正月にあたる「春節」は、黄河路の麗都花園で寝て過ごした。凍てついた石の階段で転倒した後遺症を癒しながら、頭では冬虫夏草の真髄を見抜こうと必死にもがいていた。この秋までに、強い子実体が発芽しないと計画は終わってしまう。心まで病んでしまって頭の中に去来するのは、街角で見かける「大陸乞食」という外国人失敗者の姿だった。そうだろう、川浪の祖先もこの地で果てたんだし、どうせこの自分も祖先の運命を辿るのだろう。
朦朧とした頭をよぎったのが、海城のホテルで蟻(アリ)を渡してくれた、見たこともない男のこと。流ちょうな日本語で「疲れた時にはこの蟻を食べなさい」と、手渡してくれた不思議な出来ごと。そうか、強靱な薬用蟻と栄養豊かな食材を培地にして強靭な菌体を植えつければ、否が応でも、強靱な冬虫夏草が出現するはずだ。おぼろげながら、進むべき道筋が見えてきた。
薬用蟻を探そう。中国には、北の長白山に馬蟻がいて南の江西省には擬黒多刺蟻という凄い蟻がいる。全面的な見直しを図って、擬黒多刺蟻ベースの培地をつくり、冬虫夏草を植え付けてみた。凄い勢いで発芽して箸のように太い子実体がビッシリと伸びだした。努力の結晶を1本引き抜いて口に含み、噛みしめると冬虫夏草特有の甘い香りが口腔に広がって、ゴムのような強い弾力を感じた。
大成功だ、金色の光を放つ強靱な冬虫夏草が見事に育った。